「また失敗してしまった」「挑戦しなければよかった」「周囲から笑われている気がする」そんなふうに、転んだ自分を責めてしまうことはありませんか。
仕事での失敗。
転職。
資格試験。
人間関係。
新しい挑戦。
大人になるほど、失敗したときに失うものが大きくなり、「もう一度やってみよう」と思うことさえ難しくなります。そんなとき、経営学者・経営史家の米倉誠一郎氏の言葉として広く紹介されている、こんな一言があります。
「転んだ人を笑ってはいけない。彼は歩こうとしたのだ」
この言葉の核心は、「転んだ」という結果ではありません。「歩こうとした」という行動です。失敗した人を見て、その人の価値を決めるのではなく、その人が一歩を踏み出した事実を見る。この記事では、米倉氏の研究と人生、心理学・社会心理学の知見を重ねながら、この言葉が30代・40代・50代の私たちに何を伝えているのかを考えます。
「転んだ人を笑うな」とは、どんな意味なのか

この言葉は米倉氏の言葉としてインターネット上の様々な記事の中で長年紹介されています。実際、複数の二次資料が米倉氏の発言として掲載しています。(tota.tokyo)
しかし、今回米倉氏本人やプロフィール資料からは、いつ、どこで、どのような状況で発した言葉なのかまでは確認できませんでした。本記事では、「米倉誠一郎氏の言葉として知られる」として紹介いたします。
そして、この言葉を理解する鍵が「歩こうとした」です。転ばなかった人が、必ずしも強かったとは限りません。転ばなかったのではなく、歩かなかっただけかもしれない。新しいことを試さなければ、失敗することは減りまが、それと同時にさらに新しい変革は何も起こりません。
転んだ人には、少なくとも一度は歩こうとしたという事実がある。
この見方が、この言葉の核心なのではないでしょうか。
転んでしまった人とは、実は物語りの主人公であるのかもしれません
➡「笑われる方が主人公」SEKAI NO OWARI『サザンカ』の歌詞が伝える挑戦する人の強さ
米倉誠一郎とはどんな人物なのか
米倉誠一郎氏は1953年、東京都新宿区生まれの経営学者・経営史家です。
一橋大学で社会学、経済学、経営史を学び、1990年にはハーバード大学で歴史学の博士号を取得。一橋大学イノベーション研究センター教授・センター長などを歴任し、現在は一橋大学名誉教授です。ソニー株式会社でグループ戦略関連部門のコ・プレジデントを務めた経歴もあります。(hri.ad.hit-u.ac.jp)
研究分野は、経営史とイノベーション。
著書にも『創発的破壊』『企業家の条件』『ジャパニーズ・ドリーマーズ』『敗者復活の経営学』などがあり、企業家、イノベーション、組織、社会変革について長く考察してきました。(hri.ad.hit-u.ac.jp)つまり米倉氏は、
「失敗しない方法」だけを研究してきた人物ではありません。
むしろ、新しいものを生み出す人や組織が、どのように既存の常識を超えていくのかを研究してきた人物です。
米倉氏の研究から見る「転ぶ」ということ
イノベーションには「転ぶ可能性」がある
イノベーションは、誰もが正解を知っている場所を歩くことではありません。まだ正解が分からない。前例がない。周囲から理解されない。だから、試してみる。うまくいかなければ修正する。そして、また試す。この意味では、「転ぶこと」は挑戦の副産物になり得ます。米倉氏の研究テーマであるイノベーションや企業家精神を、この言葉と重ねると、
失敗をゼロにすることより、失敗から次の試行を生み出せることの方が重要だ
という見方が浮かび上がります。実際、米倉氏は自身の「飽きっぽさ」を弱みとして挙げながら、それを「新しくて楽しいことが次々と流れ込んでくる」強みとして捉え直しています。(mirairo.co.jp)弱点を見つけたとき、「だから自分はダメだ」と結論づけるのか。それとも、「この性質を別の場所で生かせないか」と考えるのか。その違いは大きいのです。
他人の失敗を笑う方に向けて言葉を放つ人もいます。
➡「人の夢を笑うな」――夢を笑われたあなたへ。たった7文字が教えてくれた「反撃」の意味
「転んだ人」を笑う社会は、挑戦する人まで黙らせる

社会心理学の視点から見ると、集団の中では「失敗したらどう思われるか」という他者評価への意識が、行動に影響します。職場で誰かが新しい提案をして笑われた。すると、次に提案しようとしていた人は黙ってしまうかもしれません。一人の失敗を笑った結果、
次の10人の挑戦まで消えてしまう。
これは組織にとって大きな損失です。近年の研究でも、心理的安全性は学習やイノベーションと関連する重要な要素として研究されており、2025年のシステマティックレビューでも、心理的安全性と学習・イノベーション・チームパフォーマンスの関係が整理されています。(arxiv.org)
だから「転んだ人を笑わない」という態度は、単なる優しさではありません。次に挑戦する人が生まれる環境を守ることでもあるのです。
心理学から考える「失敗した自分」との向き合い方
失敗したとき、人は出来事だけでなく、自分自身まで否定してしまいがちです。「仕事に失敗した」が、「自分は仕事ができない人間だ」へ変わってしまう。ここで参考になるのが、心理学で研究されてきたセルフ・コンパッションです。
セルフ・コンパッションは、失敗した自分を無条件に正当化することではありません。「何が悪かったのか」を冷静に振り返りながら、必要以上に自分を攻撃しない姿勢です。2025年の経験サンプリング研究のメタ分析では、セルフ・コンパッションと心理的ウェルビーイングや苦痛との関連が検討され、日々の状態としての関係は、集団間の平均的な関連より小さいことも示されています。つまり、効果を単純化せず、個人や状況による変動を考える必要があります。(sciencedirect.com)
それでも、これまでの介入研究をまとめたメタ分析では、セルフ・コンパッション関連介入が自己批判を中程度低減したという結果があります。ただし、研究の質や異質性には限界があります。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)だから、失敗したときには、
「自分はダメだ」
ではなく、
「今回は転んだ。では、次はどう歩く?」
と問い直してみる。これは自分を甘やかすことではありません。自分を「失敗という一つの出来事」から救い出す作業です。
30代・40代・50代――人生の途中で転んだあなたへ
若い頃なら、失敗しても「まだこれから」と言ってもらえるかもしれません。しかし30代、40代、50代になると違います。
仕事。家庭。住宅。人間関係。これまで築いたキャリア。背負うものが増えるほど、転ぶことへの恐怖も大きくなります。だから、「今さら挑戦できない」と思う。でも、人生の途中で方向を変えることを、すべて「失敗」と呼ぶ必要はありません。
転職する。学び直す。資格に挑戦する。新しい仕事を始める。昔諦めた夢にもう一度向き合う。それは、歩き方を変えることなのかもしれません。人生には一本道しかないわけではありません。
転んでしまった後に自分を信じることができるかどうかはこれから決まります
➡自己肯定感と自己効力感の違いとは?人生を再起させる「自分を信じる力」の育て方
MIKOTO編集部の考察|転んだ人の前に、どんな言葉をかけるのか

私はサッカーに関わり、指導者として選手と接してきました。
私がサッカーコーチのライセンスを取得した際には、日本サッカー協会の指導では、具体的に選手のプレーを褒め、自由な発想で安全にプレーさせることで選手の能力を伸ばしてあげる事を推奨していました。実際に私自身も練習や試合が行われている最中の6割から7割の時間を褒めることに費やしていました。
さすがに選手が転んだ時に褒めることはありませんが、例えば、起き上がった時に「そうだ!起き上がる事が重要なんだよ!」と情熱的に褒めることで選手たちは何度でも起き上がろう(挑戦しよう)とします。結果として転ぶことも恐れなくなり、自由な発想を持ちながら生き生きとした躍動感のあるプレーを披露してくれました。
つまり、人の失敗を指摘して、見下し嘲笑う事は代償を払う事であり、肯定的な効果を得られないだけでなく他人の感情を阻害してしまう大変もったいない行為であると私は思います。もし、それが指導者や管理者の立場であるとするならば、これからの成長を見込むことができる才能の芽を摘むことになってしまいます。私自身も人生で、何度も思い通りにならない経験をしてきました。そのときに強く感じたのは、
人は失敗した結果こそ評価に値する事実である
ということでした。必要なのは、「まだ終わっていない」「もう一度やってみよう」「ここからでもいい」そんな言葉が、次の行動につながることがあります。だから私は、米倉氏のこの言葉に惹かれます。この結果だけを見れば、ただ「転んだ」という事実がある人です。でも、その人には、
歩こうとした時間があった。
その一歩まで含めて人を見る。それが、人を育てる言葉なのだと思います。
あなたが今、転んだと感じたなら
仕事に失敗した。挑戦に失敗した。人間関係で傷ついた。夢を諦めた。思い描いた人生から遠ざかった。そんな日があってもいいのです。今すぐ立ち上がれなくてもいい。少し休んでもいい。立ち止まってもいい。ただ一つだけ、
「ここが人生の終点だ」と決めないでください。
あなたが見ているのは、物語の一場面だけです。結末ではありません。
今日からできる「小さな反撃」――失敗を「次の一歩」に変える

ここでは、気合いではなく研究知見を使います。まず紙やスマートフォンに、次の二つを書いてください。
①「何が起きたか」を事実だけで書く
「プレゼンで失敗した」
ここでは、「自分はダメだ」とは書きません。
②「もし次に同じ状況になったら」を決める
「もし次にプレゼンで質問に答えられなくなったら、分からないことを認め、確認してから回答する」
この「if-then」の実行意図は、いつ・どこで・どう行動するかを事前に決める方法です。94件の独立した研究をまとめたメタ分析では、目標達成を促す中~大程度の効果が報告されています。(sciencedirect.com)大切なのは、
「次は絶対成功する」と決めることではありません。「次に転んだとき、どう歩き直すか」を決めておくことです。これなら今日、1分でできます。
転んだ人を笑わない。そして、自分自身も笑わない
この言葉は、他人への優しさだけを語っているのではないのかもしれません。自分自身に向けても、
「転んだ自分を笑わなくていい」
というメッセージとして読むことができます。失敗した。それは事実かもしれない。でも、失敗したことと、失敗した人間であることは同じではありません。転職に失敗した人。仕事で失敗した人。挑戦に失敗した人。人生で遠回りした人。そこには必ず、「歩こうとした時間」があります。その時間まで無駄だったことにしなくていいのです。
まとめ|転んだあなたには、「歩こうとした」という事実がある

米倉誠一郎氏は、経営史とイノベーションを研究し、企業家や新しい価値が生まれる過程を見つめてきた研究者です。(hri.ad.hit-u.ac.jp)そんな米倉氏の言葉として知られる、
「転んだ人を笑ってはいけない。彼は歩こうとしたのだ」
という一言。私は、この言葉を「失敗しても努力すれば必ず成功する」という意味にはしたくありません。人生には、努力しても叶わないことがあります。何度挑戦しても、うまくいかないこともあります。それでも、
挑戦したことまで無価値になるわけではありません。
転んだ。でも、その前に歩こうとした。その一歩があったからこそ、次に何を変えるべきかを考えられる。だから、今あなたが転んでいるなら、自分にこう問いかけてみてください。「私は、次にどこへ歩こうか」すぐ答えが出なくてもいい。立ち上がるのに時間がかかってもいい。まずは一歩でいい。そして、その一歩を決めたらいいのです。
転んだことは、あなたの物語の結末ではありません。
あなたは失敗した人である前に、歩こうとした人です。
だから――あなたの反撃は、ここから始まります。
次回は私自身がSNSで拝見することのあった「自分の才能について」語っている御言葉をご紹介しようと思います。
➡「自分の才能を嘆くほど、自分は努力をしただろうか?」――才能がないと諦めそうなあなたへ
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FAQ
「転んだ人を笑ってはいけない。彼は歩こうとしたのだ」は誰の言葉?
米倉誠一郎氏の言葉として複数の二次資料で紹介されています。ただし、今回確認できた範囲では、本人の一次資料によって発言日時・場所まで特定できる資料は確認できませんでした。したがって、本記事では「米倉氏の言葉として知られる」としています。(tota.tokyo)
米倉誠一郎氏は何を研究している?
主な研究分野は経営史とイノベーションです。一橋大学の研究者情報では、この2つが研究キーワードとして示されています。(hri.ad.hit-u.ac.jp)
「転んだ人を笑うな」の意味は?
失敗という結果だけで人を評価せず、その人が挑戦し、歩こうとした行為そのものに価値を見る、という意味に解釈できます。
失敗した自分を責めてしまうときは?
まず「自分はダメだ」という人格への評価と、「今回はうまくいかなかった」という出来事を分けてみてください。自己コンパッション関連介入は自己批判の軽減を目的として研究されており、複数の研究をまとめた分析でも一定の効果が示されていますが、万能ではありません。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
40代・50代からでも挑戦できますか?
年齢によって条件やリスクは変わりますが、年齢だけを理由に「もう遅い」と決める必要はありません。大切なのは、現在の条件で実行できる小さな一歩に落とし込むことです。
参考資料・外部リンク
一橋大学研究者情報|米倉誠一郎 — 学歴・職歴・研究分野。(hri.ad.hit-u.ac.jp)
一橋大学研究者情報|研究・出版物 — 『創発的破壊』『企業家の条件』『敗者復活の経営学』などの著作・研究業績。(hri.ad.hit-u.ac.jp)
米倉誠一郎氏の活動・プロフィール — 本人によるプロフィール・活動情報。
Self-Compassion研究のメタ分析 — 自己批判に対するセルフ・コンパッション関連介入の研究。(pubmed.ncbi.nlm.nih.gov)
Implementation Intentions and Goal Achievement — if-then型の実行意図と目標達成に関するメタ分析。(sciencedirect.com)



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